Share

恋する表参道 page11

Penulis: 日暮ミミ♪
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-14 13:36:45
「じゃあみなさん、参りますわよ!」

「おいおい。まさか珠莉、俺を荷物持ちでこき使うつもりじゃないだろうな?」

 姪のあまりの張り切りように、この中で唯一の男性である純也さんがげんなりして訊ねる。

「あら、私がそんなこと、叔父さまにさせると思って? ――ちょっとお耳を拝借します」

 珠莉が叔父に歩み寄り、何やらゴショゴショと耳打ちし始めた。純也さんも「うん、うん」としきりに頷いている。

(……? あの二人、何の相談してるんだろ?)

 愛美は首を傾げる。思えばここ数週間、珠莉の様子がヘンだ。今日だってそう。何だかずっと、純也さんと二人でコソコソしている。

「愛美、どしたの? ほら行くよ」

「あ……、うん」

 ――かくして、四人は竹下通りから表参道までを巡り、ショッピングを楽しんだ。……いや、楽しんでいたのは女子三人だけで、純也さんはほとんど何も買っていなかったけれど。

「ふぅ……。いっぱい買っちゃったねー」

 愛美も数軒の古着店を回り、夏物のワンピースやカットソー・スカートにデニムパンツ・スニーカーやサンダルなどを買いまくっていた。でもすべて中古品なので、新品を買うよりも格安で済んだ。

 さやかも同じくらいの買いものをして、二人はすでに満足していたのだけれど……。

「まだまだよ! 次はあそこのセレクトショップへ参りますわよ」

 それ以上にドッサリ買いまくって、もう両手にいっぱいの荷物を持ち、それでも間に合わないので純也さんにまで紙袋を持たせている珠莉が、まだ買う気でいる。

「「え~~~~~~~~っ!?」」

 これには愛美とさやか、二人揃ってブーイングした。純也さんもウンザリ顔をしている。
Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terkait

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page12

    「アンタ、まだ買うつもり!? いい加減にしなよぉ」「そうだよ。もうやめとけって」「わたしはいいよ。こんな高そうなお店、入る勇気ないし」「いいえ! さやかさん、参りましょう!」「え~~~~? あたし、ブランドものなんか興味ない――」 珠莉は迷惑がっているさやかをムリヤリ引っぱっていく。そしてなぜか、そのまま彼女にも耳打ちした。「ふんふん。な~る☆ オッケー、そういうことなら協力しましょ」(……? なに?) 事態がうまく呑み込めない愛美に、さやかがウィンクした。「じゃあ、あたしたち二人だけで行ってくるから。愛美は純也さんと好きなとこ回っといでよ」「純也叔父さま、愛美さんのことお願いしますね」「……え!? え!? 二人とも、ちょっと待ってよ!」「ああ、分かった」(…………えっ? 純也さんまで!? どうなってるの!?) ますますワケが分からなくなり、愛美は一人混乱している間に、純也さんと二人きりになった。「…………あっ、あの……?」 珠莉ちゃんと何か打ち合わせした? 純也さんはどうして当たり前のように残った? ――彼に訊きたいことはいくつもあるけれど、二人きりになってしまうと緊張してうまく言葉が出てこない。「さてと。愛美ちゃん、どこか行きたいところある?」「え……? えっと」 そんな愛美の心を知ってか知らずか、純也さんがしれっと質問してきた。……何だか、うまくはぐらかされた気がしなくもないけれど。 それでもとりあえず一生懸命考えを巡らせて、つい数十分前に思いついたことを言ってみる。「あ……、じゃあ……本屋さんに付き合ってもらえますか? 今日観てきたミュージカルの原作の小説があるらしいんで」「オッケー。じゃ、行こうか」「はいっ!」 二人はそのまま表参道を下り、東京メトロ表参道駅近くのビルの地下にある大型書店へ。(なんか、こうしてると恋人同士みたいだな……) 愛美はこっそりそう思う。ただ、まだ本当の恋人同士ではないので、手を繋いでいるだけで心臓の鼓動が早くなっているけれど。 何はともあれ、愛美はお目当ての小説の単行本をゲットし、二人は近くのベンチで休憩することにした。

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page13

    「――はい、愛美ちゃん。カフェオレでよかったかな?」 純也さんは、途中の自動販売機で買ってきた冷たい缶コーヒーを愛美に差し出す。自販機ではクレジットカードなんて使えないので、もちろん小銭で買ったのだ。 愛美は紅茶も好きだけれど、カフェオレも好きなので、ありがたく受け取った。「ありがとうございます。いただきます」 プルタブを起こし、缶に口をつける。純也さんも同じものを買ったようだ。「――愛美ちゃん、お目当ての本、見つかってよかったね」「はい。純也さんは何も買われなかったんですか? 読書好きだっておっしゃってたのに」 書店で商品を購入したのは愛美だけで、純也さんは本を手に取るものの、結局何も買っていないのだ。「うん……。最近は仕事が忙しくてね、なかなか読む時間が取れないんだ。それに、このごろはどんな本を読んでも面白いって感じられなくなってる。昔は大好きだった本でもね」 悲しそうに、純也さんが答えて肩をすくめる。――大人になると、価値観が変わるというけれど。好きだったものまで好きじゃなくなるのは、とても悲しいことだ。「じゃあ、わたしが書きます。純也さんが読んで、『面白い』って思ってもらえるような小説を」「愛美ちゃん……」「あ、もちろん今すぐはムリですけど。小説家デビューして、本を出せるようになったら。その時は……、読んでくれますか?」 この時、愛美の中で大きな目標ができた。大好きな人に、自分が書いた本を読んでもらうこと。そして、読んだ後に「面白かったよ」って言ってもらうこと。目標ができた方が、夢を追ううえでも張り合いができる。「もちろん読むよ。楽しみに待ってる。約束だよ」「はい! お約束します」 この約束は、いつか必ず果たそうと愛美は決意した。「――それにしても、純也さんってよく分かんない人ですよね」「え……? 何が?」 唐突に話が飛び、純也さんは面食らった。「だって、ブラックカードでホイホイお買いものするような人が、ちゃんと小銭も持ち歩いてるんですもん。確か、交通系のICカードもスマホケースに入ってましたよね」「見てたのか。――うん、今日も電車で来た。僕はできるだけ、〝人並みの生活〟をするようにしてるんだ」「〝人並みの生活〟……?」 愛美は目を丸くした。〝人並み以上の生活〟ができている人が、何を言っているんだろう?「うー

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page14

    「だって、事実だからさ。……あっ、ココだけの話だからね? 珠莉には言わないでほしいんだけど」「分かってます。わたし、口は堅いから大丈夫です」「よかった」 彼も一応は、言ってしまったことを少なからず悔(く)やんでいるらしい。愛美が「口が堅い」と聞いて、ホッとしたようだ。(口が堅いっていえば、珠莉ちゃんもだ) 彼女は絶対に、愛美に対して何か隠していることがある。でも、いつまで経っても打ち明けてはくれないのだ。――ことの発端(ほったん)は、約一ヶ月前に純也さんが寮を訪れたあの日。「――ところで純也さん。先月寮に遊びに来られた時、帰り際に珠莉ちゃんと二人で何話してたんですか?」「ん?」 とぼけようとしている純也さんに、愛美は畳みかける。「純也さん、わたしに何か隠してますよね?」「……ブッ!」 ズバリ問いただすと、純也さんは動揺したのか飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。「あ、図星だ」「ゴホッ、ゴホッ……。いや、違うんだ。……確かに、大人になったら色々と秘密は増える。愛美ちゃんに隠してることも、あるといえばある……かな」 むせてしまった純也さんは必死に咳を止めると、それでも動揺を隠そうと弁解する。「何ですか? 隠してることって」「愛美ちゃんのこと、可愛いって思ってること……とか」「え…………。わたしが? 冗談でしょ?」 さっきまでの動揺はどこへやら、今度はサラッとキザなことを言ってのける純也さん。愛美は顔から火を噴きそうになるよりも、困惑した。(やっぱりこの人、よく分かんないや)「いや、冗談なんかじゃないよ。僕は冗談でこんなこと言わない」「あー…………、ハイ」 どうやら本心から出た言葉らしいと分かって、愛美は嬉しいやらむず痒いやらで、俯いてしまう。(コレって喜んでいいんだよね……?) 生まれてこのかた、男性からこんなことを言われたことがあまりないので(治樹さんにも言われたけれど、彼はチャラいので別として)、愛美はこれをどう捉えていいのか分からない。「……純也さんって、女性不信なんですよね? 珠莉ちゃんから聞いたことあるんですけど」「珠莉が? ……うん、まあ。〝不信〟とまではいかないけど、あんまり信用してはいないかな」「どうして? ――あ、答えたくなかったらいいです。ゴメンなさい」 あまり楽しい話題ではないし、純

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page15

    「でも愛美ちゃんは、僕が今まで出会ったどんな女性とも違った」「えっ?」 愛美が不思議そうに瞬くと、純也さんは嬉しそうに続けた。「君には打算なんてひと欠片もないし、逆に『生まれ育った環境なんてどうでもいい』って感じだよね。君は純粋でまっすぐで、僕のことを〝資産家一族の御曹司〟じゃなく、〝辺唐院純也〟っていう一人の人間としていつも見てくれてる。そういう女の子に、今まで出会ったことなかったから嬉しいんだ」「純也さん……」 愛美は人として当然のことをしているつもりなのに。今まで偏見やイジメに苦しめられてきたからこそ、自分は絶対にそういう人間にはなるまいと心がけてきただけだ。 でも――、純也さんは愛美のそんな心がけを〝嬉しい〟と言ってくれた。「愛美ちゃん、ありがとう。僕は君に出会えてよかったと思ってるよ」「いえいえ、そんな」 彼のこの言葉は、受け取り方によっては告白とも解釈できるのだけれど。恋愛初心者の愛美には、そんなこと分かるはずもなかった。「――あ、そうだ。連絡先、交換しようか」「え……、いいんですか?」 自分からは、とてもそんなことを言い出す勇気がでなかったので、愛美の声は思いがけず弾んでしまう。「うん、もちろん。実は、前々から愛美ちゃんに直接連絡取りたいなって思ってたんだ。それに毎度毎度、珠莉を通して色々ツッコまれるのも面倒だし」「面倒……って」 前半は愛美も嬉しかったけれど、後半のひどい言い草には絶句した。実の叔父から「面倒だ」と言われる姪ってどうなの? と思ってしまう。けれど。「……まあ確かに、直接連絡取り合えた方が便利は便利ですよね」 という結論に達し、二人はお互いのスマホに自分の連絡先を登録するという方法で、アドレスを交換した。「――愛美ちゃん、スマホ使い始めて二年目だっけ? ずいぶん慣れてるね」 純也さんのスマホに自分の連絡先をパパパッと打ち込んでいく愛美の手つきに、彼は感心している。「だって、もう二年目ですよ? 一年前のわたしとは違って、一年も経てば色々と使いこなせるようになってますから」 この一年で、愛美はスマホの色々なアプリや機能を使いこなせるようになったのだ。動画を観たり、音楽を聴いたり、写真を撮ったり、メッセージアプリでさやかや珠莉と連絡を取り合ったり。スマホでできることは、電話やメールだけじゃないんだと

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page16

    「これで珠莉に気がねすることなく、いつでも連絡できるね」「はい!」  なんだかんだで、純也さんも嬉しそうだ。(もしかして珠莉ちゃんたち、わざわざわたしと純也さんが二人きりになれるように気を利かせてくれたのかな……?) 愛美はふとそう考えた。「ブランドものには興味がない」と言っていたさやかまでが、珠莉について行った理由もそう考えれば辻褄(つじつま)が合う。 さやかは元々友達想いな優しいコだし、場の空気を読むのもうまい。そして何より、彼女は愛美の純也への想いも知っているのだ。(そのおかげで、こうして純也さんとの距離をちょっとだけ縮めることもできたワケだし。二人にはホント感謝だなぁ) 愛美が親友二人の大事さを、一人噛みしめていると――。 ♪ ♪ ♪ …… 愛美のスマホが着信音を奏でた。「――あ、電話? さやかちゃんだ。出ていいですか?」 人前で電話に出るのは失礼にあたる。いくら一緒にいるのが純也さんでも。――愛美は彼にお伺いを立てた。「うん、どうぞ」「はい。――もしもし、さやかちゃん?」『愛美、今どこにいんの?』「今? えーっと……、メトロの表参道駅の近く。純也さんと本屋さんに行って、ちょっとベンチでお話してたの」 愛美は純也さんに申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、少し離れた場所へ移動する。この後、彼に聞かれたら困る話も出てくるかもしれないと思ったからである。『そっか。あたしたちもやっと買いもの終わったとこでさぁ、ちょうど表参道沿いにいるんだ。――で、どうよ? 二人っきりになって。何か進展あった?』「えっ? 何か……って」 明らかに〝何か〟があって動揺を隠しきれない愛美は、「やっぱり純也さんと離れてよかった」と思った。「……えっと、純也さんに『可愛い』、『出会えてよかった』って冗談抜きで言われた。あと、連絡先も交換してもらえたよ」『えっ、それマジ!? それってほとんど告られたようなモンじゃん!』「え……、そうなの?」『そうだよー。アンタ気づかなかったの? もったいないなー。じゃあ、アンタから告白は?』「…………してない」 そう答えると、電話口でさやかにため息をつかれた。それでやっと気づく。さやかたちが愛美を純也さんと二人きりにしてくれたのは、愛美が告白しやすいようなシチュエーションをお膳立てしてくれたんだと。『なぁん

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page17

    「ゴメンなさい。電話、長くなっちゃって」「さやかちゃん、何だって? なんか、僕に聞かせたくない話してたみたいだけど」 ちょっとスネたような言い方だけれど、純也さんはむしろ面白がっているようだ。女子トークに男が入ってはいけないと、ちゃんと分かっているようである。「ああー……。えっと、さやかちゃんと珠莉ちゃんも今、表参道沿いにいるらしくて。もうすぐ合流できるって言ってました」「それだけ?」「いえ……。でも、あとは女子同士の話なんで。あんまりツッコまれたくないです。そこは察して下さい」 純也さんだって、一応は大人の男性なのだ。そこはうまく空気を読んで、訊かないようにしてほしい。「…………うん、分かった」 ちょっと納得はいかないようだけれど、純也さんは渋々頷いてくれた。「――お~い、愛美! お待たせ~☆」 数分後、さやかが大きな紙袋を抱えた珠莉を引き連れて、愛美たちのいるところにやって来た。「さやかちゃん、珠莉ちゃん! ――あれ? 珠莉ちゃん、また荷物増えてない?」「珠莉……。お前、また買ったのか」 純也さんも、姪の荷物を見てすっかり呆れている。「ええ。大好きなブランドの新作バッグとか靴とか、欲しいものがたくさんあったんですもの。でも、さやかさんを荷物持ちにするようなことはしませんでしたわよ?」「いや、そこは自慢するところじゃないだろ。せめて配送頼むとかって知恵はなかったのかよ?」 わざわざ自分で荷物を持たなくても、寮までの配送を手配すればいいのでは、と純也さんが指摘する。 個人の小さなショップならともかく、セレクトショップなら配送サービスもあるはずだと。 ――ところが。「配送なんて冗談じゃありませんわ。手数料がもったいないじゃないですか」「珠莉ちゃん……」 彼女らしからぬ発言に、愛美も二の句が継げない。(珠莉ちゃんお金持ちなんだから、それくらいケチらなくてもいいのに) と愛美は思ったけれど、お金持ちはケチと紙一重でもあるのだ。……もちろん、ほんの一部の人だけれど。「…………あっそ」 これ以上ツッコんでもムダだと悟ったらしい純也さんは、とうとう白旗を揚げた。「――ねえ、珠莉ちゃん、さやかちゃん。ちょっと」 愛美は少し離れた場所に、親友二人を手招きした。この話は、純也さんに聞かれると困る。「何ですの?」「うん?」「

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page18

    「叔父さまに頼まれていたの。『ほんのちょっとでいいから、愛美さんと二人きりで話せる時間がほしい』って」「え……。純也さんが? そうだったんだ」 ……知らなかった。純也さんがそのために、「苦手だ」と言っていた珠莉(めい)に頼みごとをしていたなんて。 そして、その頼みを聞き入れた珠莉にもビックリだ。(やっぱり純也さん、珠莉ちゃんに何か弱み握られてるんじゃ……) そうじゃないとしても、純也さんと珠莉の関係に何か変化があったらしいのは確かだ。同じ秘密を共有しているとか。(……うん。そっちの方がしっくりくるかも) 叔父と姪の関係がよくなったのなら、その考え方の方が合っている気がする。……それはさておき。 「そういえばさっき、電話で愛美から聞いたんだけど。二人、連絡先交換したらしいよ」「えっ、そうだったんですの? 愛美さん、よかったわねぇ」「うん。……あれ? さっきの電話の時、珠莉ちゃんも一緒だったんじゃないの?」 電話口のさやかの声は、興奮していたせいかけっこう大きかった。だから、側にいたなら珠莉にも聞こえていたはずなのだけれど。「私には聞こえなかったのよ。確かに、さやかさんの側にはいたんだけど、周りに人が多かったものだから」(ホントかなぁ、それ) 珠莉の言ったことはウソかもしれないと、愛美は疑った。でも、聞こえなかったことにしてくれたのなら、珠莉にしては気が利く対応だったのかもしれない。「……そうなんだ。じゃあ、そういうことにしとくね」 何はともあれ、愛美は純也さんといつでも連絡を取り合えるようになり、親友二人にもそのことを喜んでもらえた。それだけで愛美は万々(ばんばん)歳(ざい)である。「――さて。日が傾いてきたけど、みんなどうする? まだ行きたいところあるなら、付き合うけど」 純也さんが腕時計に目を遣りながら、愛美たちに訊ねた(ちなみに、彼の腕時計はブランドものではなくスポーツウォッチである)。 時刻はそろそろ夕方五時。今から電車に飛び乗って帰ったとしても、六時半からの夕食に間に合うかどうか……。「あっ、じゃあクレープ食べたいです! チョコバナナのヤツ」「わたしも!」「私も。ヘルシーなのがいいわ」 〝原宿といえばクレープ〟ということで、女子三人の希望が一致した。 甘いもの好きの純也さんが、この提案に乗らないわけはなく。と

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14
  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   恋する表参道 page19

    「あたし、ばななチョコホイップ。プラス百円でドリンクつけよう」「わたしも」「僕も同じので」「私はツナチーズサラダ、っと」 ドリンクは愛美・純也さん・さやかはタピオカミルクティーをチョイスした。珠莉はドリンクなしだ。「愛美は初タピオカだねー」「うん!」 山梨のド田舎にいた頃は飲んだことはもちろん、見たことすらなかったタピオカドリンク。愛美はずっと楽しみにしていたのだ。「実は、僕も初めて」「「えっ!?」」 純也さんの衝撃発言に、愛美とさやかは心底驚いた。「いや、男ひとりで買うの勇気要るんだよ」「はぁ~、なるほど……」 分からなくはない。女子が「映(バ)える~!」とかいって、こぞってSNSに写真をアップしているのはよく見かけるけれど。男性がそれをやっていたら、ちょっと引く……かもしれない。 「ちょうどいいや。写真撮って、SNSにアップしよ♪」「あー、それいいね」 愛美とさやかはクレープとタピオカミルクティーを並べてスマホで撮影し、さっそくSNSに載せた。「……なんか以外だな。愛美ちゃんも、SNS映えとか気にするんだ?」「毎回ってワケじゃないですよ。今回は初タピオカ記念で」 純也さんの疑問に、愛美はちょっと照れ臭そうに答える。流行に疎いということと、流行に興味がないこととは別なのだ。「純也さん、……引きました?」 浮(うわ)ついた女の子に見えたかもしれないと、愛美は気にしたけれど。「いや、別に引かないよ。ただ、君もやっぱり今時の女子高生なんだなーと思っただけだ」「……そうですか」 その言葉を、愛美はどう受け取っていいのか迷った。「女子高生らしくて可愛い」という意味なのか、「すっかり世慣れしてる」という意味なのか。 ……愛美としては、前者の意味であってほしい。 愛美とさやかの二人が満足のいく写真をアップできたところで、四人はクレープにかぶりついた。「「「お~いし~~い☆」」」「うま~い!」「ばななチョコ、とろける~♪ ホイップもいい感じだねー」「ねー☆ やっぱチョコはテッパンだねー」 最後の感想は、もちろんチョコ好きのさやかである。他にも美味しそうなクレープが何種類かあった中で、何の迷いもなくチョコ系を選んだのがいかにも彼女らしい。「ツナチーズもいけますわよ」「えっ、マジ? 一口ちょうだい! あたしのも一口あ

    Terakhir Diperbarui : 2025-02-14

Bab terbaru

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page8

       * * * * というわけで、卒業式前の連休――というか厳密に言えば自由登校期間だけれど――の初日、二泊三日分の荷物を携えた愛美とさやかはJR長野駅の前に立っていた。「――愛美、あたしの分まで交通費全額出してもらっちゃって悪いね。でもよかったの?」「いいのいいの! わたし今、口座に大金入ってるから。ひとりじゃ使いきれないし、使い道も分かんないし」 冬休みに突然舞い込んできた二百万円というお金は、まだギリギリ高校生でしかも施設育ちの愛美にとってはとんでもない大金だった。作家として原稿料も振り込まれてくるけれど、さすがに百万円単位はケタが違う。印税でも入ってこない限り、そんな金額は目にすることがないと思っていた。「そっか、ありがとね」 多分、さやかもそんな大金はあまり見ないんじゃないだろうか。 そして、愛美に自分の分まで交通費を負担してもらったことを申し訳なく感じているだろうから、後で「立て替えてもらった分、返すよ」と言ってくるに違いない。その分を受け取るべきかどうか、愛美は迷っていた。 さやかの顔を立てるなら、素直に受け取るべきだろうけれど。愛美としては貸しにしているつもりはないので、返してもらうのも何か違う気がしているのだ。 それはきっと、もっと大きな金額を愛美に投資してくれている〝あしながおじさん〟=純也さんも同じなんだろうと愛美は思うのだけれど……。「――農園主の善三さんの車、もうすぐこっちに来るって。奥さんの多恵さんからメッセージ来てるよ」「そっか」 スマホに届いたメッセージを見せた愛美にさやかが頷いていると、二人の目の前に千藤農園の白いミニバンが停まった。助手席から多恵さんが降りてくる。「愛美ちゃん、お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。――あら、そちらが電話で言ってたお友だちね?」「はい。牧村さやかちゃんです」「初めまして。愛美の大親友の牧村さやかです。今日から三日間、お世話になります」 さやかが礼儀正しく挨拶をすると、多恵さんはニコニコ笑いながら「こちらこそよろしく」と挨拶を返してくれた。「静かな場所で過ごしたくて、ここに来たいって言ったそうだけど、ウチもまあまあ賑やかよ。だからあまり落ち着かないかもしれないわねぇ」「いえいえ! 寮の食堂に比べたら全然静かだと思います。ね、愛美?」「うん、そうだね。多恵さん、ウ

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page7

     ――今年の学年末テストもバレンタインデーも終わり、卒業式が間近に迫った三月初旬。さやかが思いがけないことを愛美に言った。「卒業式前の連休、あたしも一緒に長野の千藤農園に行きたいな。愛美、執筆の息抜きに行きたいって言ってたじゃん」「えっ、わたしは別に構わないけど……。さやかちゃん、急にどうしたの?」 部屋の勉強スペースで執筆をしていた愛美は、キーボードを叩いていた手を止めて小首を傾げた。彼女が「千藤農園へ行きたい」なんて言ったことは今まで一度もなかったから。「いやぁ、愛美がいいところだって言ってたし、あたしも前から一度は行ってみたいと思ってたんだよね。純也さんのお母さん代わりだったっていう人にも会ってみたかったしさ。っていうかぶっちゃけ、最近食堂がうるさくてストレスなんだわ」「あー……、確かに。会話もままならない感じだもんね」 さやかも言ったとおり、最近〈双葉寮〉の食堂では特に夕食の時間、みんなが一斉におしゃべりをする声が大きくこだましてやかましいくらいである。隣り同士や向かい合って座っていても、話す時には手でメガホンを作って「おーい!」とやらなければ聞こえないのだ。そりゃあストレスにもなるだろう。「分かった、わたしから連絡取ってみるよ。この時期だと……、農園では夏野菜の苗を植え始めたりとかでちょっとずつ忙しくなるだろうから、一緒にお手伝いしようね。あと、純也さんと二人で行った場所とかも案内してあげる」「やった、ありがと! 野菜育てるお手伝いなら、ウチもおばあちゃんが家庭菜園やってるからあたしもよくやってたよ。じゃあ、連絡よろしくね」「うん」 愛美のスマホには、千藤農園の電話番号はもちろん多恵さんの携帯電話の番号も登録してある。愛美から連絡したら、多恵さんはびっくりしながらも喜んでくれるだろう。ましてや、今回は一人ではなく友だちも一人連れていくんだと言ったら、大喜びで歓迎してくれるだろう。「じゃあ、原稿がキリのいいところまで書けたら、さっそく多恵さんに電話してみよう」 という言葉どおり、愛美は執筆がひと段落ついたところで多恵さんの携帯に電話した。

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page6

       * * * * 部活も引退したことで執筆時間を確保できるようになった愛美は、本格的に新作の執筆に取りかかることができるようになった。「――愛美、まだ書くの? あたしたち先に寝るよー」 〝十時消灯〟という寮の規則が廃止されたので、入浴後に勉強スペースの机にかじりついて一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩き続けていた愛美に、さやかがあくび交じりに声をかけた。横では珠莉があくびを噛み殺している。「うん、もうちょっとだけ。電気はわたしが消しとくから、二人は先に寝てて」 本当に書きたいものを書く時、作家の筆は信じられないくらい乗るらしい。愛美もまさにそんな状態だった。「分かった。でも、明日も学校あるんだからあんまり夜ふかししないようにね。じゃあおやすみー」「夜ふかしは美容によろしくなくてよ。それじゃ、おやすみなさい」 親友らしく、気遣う口調で愛美に釘を刺してから、さやかと珠莉はそれぞれ寝室へ引っ込んでいった。「うん、おやすみ。――さて、今晩はあともうひと頑張り」 愛美は再びパソコンの画面に向き直り、タイピングを再開した。それから三十分ほど執筆を続け、キリのいいところまで書き終えたところで、タイピングの手を止めた。「……よし、今日はここまでで終わり。わたしも寝よう……」 勉強部屋の灯りを消し、寝室へスマホを持ち込んだ愛美は純也さんにメッセージを送った。 『部活も引退したので、今日からガッツリ新作の執筆始めました。 今度こそ、わたしの渾身の一作! 出版されたらぜひ純也さんにも読んでほしいです。 じゃあ、おやすみなさい』 送信するとすぐに既読がついて、返信が来た。『執筆ごくろうさま。 君の渾身の一作、俺もぜひ読んでみたいな。楽しみに待ってるよ。 でも、まだ学校の勉強もあるし、無理はしないように。 愛美ちゃん、おやすみ』「……純也さん、これって保護者としてのコメント? それとも恋人としてわたしのこと心配してくれてるの?」 愛美は思わずひとり首を傾げたけれど、どちらにしても、彼が愛美のことを気にかけてくれていることに違いはないので、「まあ、どっちでもいいや」と独りごちたのだった。 高校卒業まであと約二ヶ月。その間に、この小説の執筆はどこまで進められるだろう――?

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page7

     ――そして、高校生活最後の学期となる三学期が始まった。「――はい。じゃあ、今年度の短編小説コンテスト、大賞は二年生の村(むら)瀬(せ)あゆみさんの作品に決定ということで。以上で選考会を終わります。みんな、お疲れさまでした」 愛美は部長として、またこのコンテストの選考委員長として、ホワイトボードに書かれた最終候補作品のタイトルの横に赤の水性マーカーで丸印をつけてから言った。 (これでわたしも引退か……) 二年前にこのコンテストで大賞をもらい、当時の部長にスカウトされて二年生に親友してから入部したこの文芸部で、愛美はこの一年間部長を務めることになった。でも、プロの作家になれたのも、あの大賞受賞があってこそだと今なら思える。この部にはいい思い出しか残っていない。 ……と、愛美がしみじみ感慨にふけっていると――。「愛美先輩、今日まで部長、お疲れさまでした!」 労(ねぎら)いの言葉と共に、二年生の和田原絵梨奈から大きな花束が差し出された。見れば、他の三年生の部員たちもそれぞれ後輩から花束を受け取っている。 これはサプライズの引退セレモニーなんだと、愛美はそれでやっと気がついた。「わぁ、キレイなお花……。ありがとう、絵梨奈ちゃん! みんなも!」「愛美先輩とは同じ日に入部しましたけど、先輩は私にいつも親切にして下さいましたよね。だから、今度は私が愛美先輩みたいに後輩のみんなに親切にしていこうと思います。部長として」「えっ? ホントに絵梨奈ちゃん、わたしの後任で部長やってくれるの?」 いちばん親しくしていた後輩からの部長就任宣言に、愛美の声は思わず上ずった。「はい。ただ、正直私自身も務まる自信ありませんし、頼りないかもしれないので……。大学に上がってからも、時々先輩からアドバイスを頂いてもいいですか?」「もちろんだよ。わたしも部長就任を引き受けた時は『わたしに務まるのかな』ってあんまり自信なくて、後藤先輩とか、その前の北原部長に相談しながらどうにかやってきたの。だから絵梨奈ちゃんも、いつでも相談しに来てね。大歓迎だから」 「ホントですか!? ありがとうございます! でもいいのかなぁ? 愛美先輩はプロの作家先生だから、執筆のお仕事もあるでしょう?」「大丈夫だよ。むしろ、執筆にかかりっきりになる方が息が詰まりそうだから。絵梨奈ちゃんとおしゃべりして

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page6

     それはともかく、わたしは園長先生から両親のお墓の場所を教えてもらって、クリスマス会の翌日、園長先生と二人でお墓参りに行ってきました。〈わかば園〉で聡美園長先生たちによくして頂いたこと、そのおかげで今横浜の全寮制の女子校に通ってること、そしてプロの作家になれたことを天国にいる両親にやっと報告できて、すごく嬉しかったです。 園長先生はさっそくわたしが寄付したお金を役立てて下さって、今年のクリスマス会のごちそうとケーキをグレードアップさせて下さいました。おかげで園の弟妹たちは大喜びしてくれました。まあ、ここのゴハンだって元々そんなにお粗末じゃなかったですけどね。 そしておじさま、今年もこの施設の子供たちのためにクリスマスプレゼントをドッサリ用意して下さってありがとう。もちろん、おじさまだけがお金を出して下さったわけじゃないでしょうけど。名前は出さなくても、わたしにはちゃんと分かってますから。 お正月には、施設のみんなで近くにある小さな神社へ初詣に行ってきました。やっぱりおみくじはなかったけど……。 もうすぐ三学期が始まるので、また寮に帰らないといけないのが名残惜しいです。やっぱり〈わかば園〉はわたしにとって実家でした。三年近く離れて戻ってきたら、ここで暮らしてた頃より居心地よく感じました。 三学期が始まったら、文芸部の短編小説コンテストの選考作業をもって文芸部部長も引退。そして卒業の日を待つのみです。わたしはその間に、〈わかば園〉を舞台にした新作の執筆に入ります。今度こそ出版まで漕ぎつけられるよう、そしておじさまやみんなにに読んでもらえるよう頑張って書きます! ここにいる間にもうプロットはでき上って、担当編集者さんにもメールでOKをもらってます。 では、残り少ない高校生活を楽しく有意義に過ごそうと思います。      かしこ一月六日      愛美』****

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page5

    ****『拝啓、あしながおじさん。 新年あけましておめでとうございます。おじさまはこの年末年始、どんなふうに過ごしてましたか? わたしは今年の冬休み、予定どおり山梨の〈わかば園〉で過ごしてます。新作の取材もしつつ、弟妹たちと一緒に遊んだり、勉強を見てあげたり。 施設にはリョウちゃん(今は藤(ふじ)井(い)涼介くん)も帰ってきてます。新しいお家に引き取られてからも、夏休みと冬休みには帰ってきてるんだそうです。向こうのご両親が「いいよ」って言ってくれてるらしくて。ホント、いい人たちに引き取ってもらえたなぁって思います。おじさま、ありがとう! お願いしててよかった! リョウちゃんは今、静岡のサッカーの強豪高校に通ってて、三年前よりサッカーの腕前もかなり上達してました。体つきも逞しくなってるけど、あの無邪気な笑顔は全然変わってなかった。「やっぱりリョウちゃんだ!」ってわたしも懐かしくなりました。 そして、わたしが今回いちばん知りたかったこと――両親がどうして死んでしまったのかも、聡美園長先生から話を聞かせてもらえました。 わたしの両親は十六年前の十二月、航空機の墜落事故で犠牲になってたんです。で、両親は事故が起きる二日前に、小学校時代の恩師だった聡美園長にまだ幼かったわたしを預けたらしいんです。親戚の法事に、どうしてもわたしを連れていけないから、って。でも、それが最後になっちゃったそうで……。 幸いにも両親の遺体は状態がよかったから、園長先生が身元

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page4

    「わたしが作家になれたのも、その人のおかげなんだよ。だから、わたしも感謝してるの」「そっか。うん、めちゃめちゃいい人だよな。で、姉ちゃん。さっき言ってた『新作のための取材』ってどういうこと?」「あのね、新作はここを舞台にして書くつもりなの。ここにいた頃のわたしを主人公のモデルにして。……この施設がわたしの、作家としての原点だと思ってるから」 もし両親が生きていて、この施設で暮らすことがなかったとしたら、愛美は果たして「作家になりたい」という夢を抱いていただろうか……? そう思うと、やっぱり愛美の作家としての原点はここなのだと愛美は思うのだった。「オレも久しぶりに愛美姉ちゃんと過ごせて嬉しいよ。静岡に行って、高校に上がってから夏休みにもここに帰ってきてたけど、姉ちゃんがいないと淋しかったからさ。また一緒にサッカーの練習、付き合ってよ」「いいよ。でもリョウちゃん、サッカー上手くなってるからついて行けるかな……」 三年近く会っていない間に、彼のサッカーはグンと上達している。サッカーの強豪校に進学させてもらったからでもあると思うけれど、今の涼介に愛美はついて行けるかちょっと不安だ。「大丈夫だよ、一緒にボールを追いかけられるだけでオレは楽しいから」「そっか」 いちばん年齢の近かった涼介と再会できただけで、愛美はここを離れていた三年間という時間がまた巻き戻ったような気持ちになった。    * * * * その夜、〈わかば園〉では施設を卒業した愛美と涼介も参加してのクリスマス会が行われた。 今年のクリスマス会は、早速愛美が寄付したお金も使われたのか例年に増してケーキもごちそうも豪華になっていて、子供たちも大喜びだった。 そして、例年どおり〝あしながおじさん〟=田中太郎氏=純也さんを含む理事会から子供たちへのクリスマスプレゼントもどっさり用意されていて、「そうそう、これがここのクリスマスだったなぁ」と懐かしくなった。

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page3

       * * * * 愛美は宿舎へ向かう前に、庭の方を通りかかった。サッカー少年の涼介が、今日もここでサッカーの練習をしているような気が下から。 今もこの施設に暮らす男の子たちに混ざって、高校生くらいの少年が一人、サッカーボールを追いかけながら走っている。愛美は彼の顔に、自分がよく知っている少年の面影を見た。「――あっ、やっぱりいた! お~い、リョウちゃーん!」 手を振りながら呼びかけると、驚きながらも手を振り返してくれた少年――小谷涼介は、身長が少し伸びて筋肉もついているけれど、顔は三年前とほとんど変わっていない。「愛美姉ちゃん! 久しぶり……っていうかなんでここに? ――あ、ちょっとごめん! お前ら、今日の練習はここまで。もうすぐ晩メシだから、ちゃんと手洗えよ!」 子供たちのコーチをしていたらしい涼介は、泥まみれになっている彼らに練習の終了を告げた。三年近くここに帰ってこない間に、彼もすっかり〝お兄さん〟になっていた。「リョウちゃん、元気そうだね。わたしもね、今年の冬休みの間はここで過ごすことにしたんだよ。新作のための取材も兼ねてるんだけど」「そっか。そういや愛美姉ちゃん、作家になったんだよな。おめでと。オレも本買ったよ。義父(とう)さんも義母(かあ)さんも、『この本は施設にいた頃のお姉ちゃんが書いたんだ』ってオレが言ったら二人とも買ってくれてさ。ウチにはあの本が三冊もあるんだぜ」「そうなんだ? リョウちゃん、すっかり新しいお家に馴染んでるみたいだね。よかった」 自分が〝あしながおじさん〟=純也さんにお願いして見つけてもらった涼介の養父母。彼がその家に馴染んでいるか、愛美はずっと心配だったけれど、彼の口ぶりからしてすっかり気に入っているようでホッとした。「うん。二人とも、オレにすごくよくしてくれてるよ。園長先生から聞いたんだけど、愛美姉ちゃんが理事の人に頼み込んで見つけてくれたんだよな? 姉ちゃん、ありがとな」「ううん、わたしはただお願いしただけで、実際に動いてくれたのはその理事の人だよ。わたしの時にも手を差し伸べてくれたから、リョウちゃんのことも何とかしてくれるかな……と思ってダメもとでお願いしたら、ちゃんとしてくれて。ホント、いい人でしょ?」 彼はお金を出してくれて終わりではなく、常に相手にとって最善の方法を見つけてくれる。 愛

  • 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~   渾身の一作と卒業の時 page2

     愛美の答えを聞いた園長は、困ったような笑みを浮かべた。「……実はね、愛美ちゃん。辺唐院さんも今月の第一水曜日にここへいらした時、私におっしゃってたのよ。『どうやら彼女は、僕の正体に気づいているみたいです』って。あなたは頭のいい子だから、いずれはこうなると思ってらっしゃったみたいで。もしかしたら、あなたに本当のことを打ち明けるタイミングを計りかねている感じだったわ」「そう……なんですか? だとしたら、彼はいつごろわたしに打ち明けてくれるつもりなんだろう……?」 彼がタイミングを計っていることは間違いないだろうけれど。打ち明けると愛美と気まずくなるのを恐れて、なかなか打ち明けられないというのもあるのかもしれない。「――とにかく、今日から二週間はあなたも実家に帰ってきたつもりで、ここでお過ごしなさい。ちゃんと取材には応じてあげるから。あとは子供たちの相手をしてくれたり、事務作業を手伝ってくれると助かるけれど。それはあくまであなたの意思に任せるわね」「はい」「あなたはまた六号室で寝泊まりしてもらおうかしらね。みんな、愛美お姉ちゃんと一緒に寝るのを楽しみにしてるから」「分かりました。六号室かぁ……、懐かしいなぁ」 愛美はここを巣立っていくまでずっと、六号室で五人の幼い弟妹たちと過ごしていたのだ。あれから三年近く経って、あの子たちも大きくなったことだろう。幼稚園の年長組だった子も、小学三年生になっているはずだ。「あ、あとね、涼介君も今、施設に帰ってきてるのよ。引き取られた先のご両親が、夏休みと冬休みにはここに帰ってきてもいいっておっしゃったらしくて」「えっ、リョウちゃんも? 嬉しいな」「ええ。今夜はクリスマス会をやるから、愛美ちゃんも参加してね。涼介君も参加したいって言ってたから。お正月にはみんなでまた近くの神社へ初詣に行きましょうね」「はい!」 まるで自分の祖母のような園長とのやり取りで、愛美はあっという間に三年前に引き戻されたような懐かしい気持ちになった。このアットホームな雰囲気が、この園での生活が楽しいと感じたいちばんの理由だった。「――そういえば、その服の感じも懐かしいわね。愛美ちゃん、ここにいた頃もよくブルーのギンガムチェックの服を着てた憶えがあるわ」 園長はふと、愛美が着ているブルーのギンガムチェックのシャツを眺めて目を細める。ボト

Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status